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serendipity

如是我読  ペンギンは読書中

 
小説というのは、こんなにも深く読めるのかと思った。
読みこめばそれだけ豊かな世界を味わえるのかもしれない。

こんなにも深く読まなければならないのかとも思った。
だとすると、すごくしんどそうだ。
深読みせず、上っ面を楽しむだけでもかまわない気もするが。

前に紹介した『未来形の読書術』の感想と同じになってしまった。

本書のタイトルは、江川卓の『謎とき『罪と罰』』などからとられている。
「小説の読み方に共通するところがある」と著者が考えたからだ。
大切なのは、一部分だけをとりあげて、勝手に解釈するのではないということ。


  …(略)読者にこの読み方しかないという「錯覚」を起こさせるくらい
  でなければ、「謎とき」が十分に成功したとは言えないだろう。
    こういう風に、ある小説をある枠組みから統一して読むことが、
  「謎とき」を「方法」にまで高めるやり方なのである。(略)…


   小説を読むことは謎ときをすることだ。謎がたくさん隠されていて、
 それを読者が読みとく。それが小説を読むことだ。もしすべての謎が
 とかれたら(もちろん現実にはそんなことはあり得ないが、)それは
 その小説の死である。なぜなら、誰が読んでも同じ読み方しかできなく
 なってしまうからだ。だから、小説家は一番書きたいことを隠して書く。
 書かないのではない。隠して書くのだ。すぐれた小説家は、そうやって
 読者の謎ときを誘いながら、同時に読者の謎ときから自分の小説を
 守ろうとするのである。


   …(略)小説家はそういうものだ。言いたいことをそのまま書くの
 だったら評論家になればいい。人はなぜ小説家になるのかといえば、
 言いたいことを隠すために小説家になるのである。(略)…



ここでは村上春樹の初期の5作品、
『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ノルウェイの森』
がとりあげられている。

なかでも刺激的でおもしろかったのが、『風の歌を聴け』の謎とき。
じつは10年ほど前に別の人たちがすでにやっているのだが、
あまり広く知られてはいないらしい。
本書では、その成果を利用しながら、話がすすめられている。

ふつうのラブストーリーとしても楽しめるけれど、
ことばや数字などを手がかりに読みすすめると、
村上春樹があきらかに意識していながら、
はっきりとは書かずにいたことが浮かびあがってくる。
さらっと読んだときとはちがう物語があらわれる。

まるでミステリを読んでいるようだ。
このあたりの作業はかなり緻密だけれど、
そういうタイプのミステリが苦手なぼくでも楽しめる。

作家がみんなこういう書き方をするわけでもないだろうが、
読む側の心構えが変わってくるかもしれない。

『未来形の読書術』を読み返そう。


謎とき村上春樹 (光文社新書)謎とき村上春樹 (光文社新書)
(2007/12/13)
石原 千秋

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